『若きウェルテルの悩み』(ゲーテ)

『若きウェルテルの悩み』(ゲーテ)

小説であるが故に、ブリーフィング・感想といういつもの形式は採らない。

この話はやや厭世のきらいがあるウェルテルがロッテという人妻に恋をし、思い悩んだ末に自殺するまでの心の葛藤を日記形式で記している。

本作品の中で驚嘆すべきはその心情の仔細な描写である。ゲーテが評価される理由も納得である。

さらに興味深いのは本作中、いわゆる”悪者”は一人も出てこないことである。悪者は出てこないのに、愛や慣習が交錯し、最終的に一人の青年の死がもたらされる。そこに人間関係に関する諸問題の本質の一部が垣間見える。つまり、世の中全ての人間が正であり、善であったとしても、交流の齟齬によって、人と人との間に想像に固くない”悪”が生まれる。誰が誰を恨んだわけでもない。嫉妬した訳でもない。ただ、それはそこに生じてしまうのである。

【その他】

理不尽な生に意味はあるのか。
理不尽な生からの逃避としての自殺は本当に糾弾されるべきなのか。

およそ理性と呼べるものが生じて以来、「生きる意味」は僕の中で常にテーマとなってきた。「正義」か「善」か「金」か「愛」か。

今のところの「正解」は『夜と霧』の中の記述、つまり生とは常に具体的状況の中でこそ、あり得るというものがしっくり来る。
生の意味は果たして抽象的なものであり得るか。
おそらく、そうではない。
各人の具体的状況において、生が私に問いかける、「今、私がいる意味」、一つ一つ下した決断や積み上げられる精神、それこそが生の意味である。