『経済学に何ができるか』(猪木 武徳) 

『経済学に何ができるか』(猪木 武徳) 

※以下、古い書評故にフォーマットが異なる

 

 昨今、日本において特に「経済学は実際なんの役にも立たない」というニヒリズム的な論調が目立つのは確かである。実際経済学を学んだからといって、正しい政策処方箋が出せる訳ではないし、景気の変動も分からないことが多い。

 では経済学は本当に価値のない学問なのだろうか。本書では経済学がもたらす知見の可能性とその限界について語っている。

 過去の著作を見る限り、筆者は経済学史・思想を研究されている人らしい。そのことからか、アダムスミスやケインズ、ナイトなどの思想に頻繁にふれ、現代の諸制度を概観するのである。

 

【印象的な言葉】

 

・  「昨日の自分」と「今日の自分」が異なった考えや感情をもちうるからこそ、「移ろいやすい自己」をなんらかの形でしばらなければならない。

 

・  政策提言は常に全き論証ではなく、主張という性格を帯びざるを得なくなる。

 

・  ここで言う「人間として気持ちよく住める建物」は善き生活のための善き経済政策に対応する物であり、「骨」や「柱」が経済理論に相当すると考えてもよいだろう。

 

・経済学者による専門的判断だけではなく、健全な価値観と判断能力を持ったアマチュアの生活者としての知恵も必要とされる。